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・『多読術』 松岡正剛 2009


とがきにこうあります。M.J.アドラーとC.V.ドーレンの『本を読む本』を解説したあと、《ぼくが本書でおススメした多読術は、そういうものではない。うんと柔らかい。もっと認知関係的で、かなりパフォーマティブで、プロセス的で、きわめて編集的なのだ》(P203)。この文章の意味がわかった人は、本書を十分に楽しめるのかもしれません。ちなみに本書は「岩波新書」でもなく「中公新書」でもなく、まして「ちくま新書」でもない「ちくまプリマー新書」です。

引用箇所を読んで意味不明・脳ミソ停止・自己嫌悪のかた、本書に触れてはいけません。先に読むべき読書法の本が数多(あまた)あります。それでも本書に多読術を期待するあたな!多読術については①目次を先に3分間読め(前戯?)②理解できなくても、どんどん進め③マーキングしながら読め④本は二度読め⑤たくさん読めば速くなる、主にこれだけです(多読術なのか?)。

「千夜千冊」ファン・松岡正剛ファンなら、ありきたりな読書法しか書いてなくてもいいのでしょう。いな、あのセイゴウ先生もこんなシンプルなことしかやっていないのか!という発見はあるかもしれません。けれど、本書が読書法案内として内容が薄い理由が、「詳しくはISIS編集学校へ」(著者が校長をされている学校)ということなら、残念なことです。多くの先達の書物から、その怜悧(れいり)な頭脳で果実を味わいつくしてきたであろう人なのに、840円では教えてくれないのですか。

ちょっと愚痴りすぎですね、すいません。これもひとえにボクの頭が悪いのです、本書が悪いわけではありません。そもそも読書法メインの企画ではなかったのかもしれません。己の脳ミソの至らなさと、「えっ松岡正剛が、多読術の本!!」と興奮した時の淡い過去を惜しんでいるのです。そこにはめくるめく多読法や「セイゴウ式マーキング」の、そのマークの意味が解説してあるのでは、と期待したのです。

「多読術」という書名に、ない胸ふくらみすぎてしまったのです。本書はインタビュー形式ですが、秀才編集担当者には、真っ向からそして微細に、松岡正剛氏に多読術を聞く気がなかったのか(もっと突っ込んで聞いてよ)、あるいは、単に売れそうだと思って書名を付けたのか。思惑通りボクは買ってしまったのです。愚痴が止まらずごめんなさい。この秀才編集担当者のインタビューにはイライラします(秀才さんごめんなさい)。もしかしてペーパー見ながらインタビューしてる?松岡正剛氏の著作読んできてる?インタビューマニュアル読んできた?えっおしっこ行きたかったの?なぜもっとえぐって質問しないの?

つまり、ボクの愚痴の起因は、秀才編集担当者のインタビューの質の粗末さなのです。せっかくセイゴウ先生にインタビューできるのだから、秀才ではなくとも己の質問と相手の回答にくらいつく、知的誠実さのあるかたにお願いしたかった……。

とは言うものの、松岡正剛ファンなら読まざるを得ないですよ、その豊潤な思考には触れられますし。読書法の本、という視点で読まなければいいのです。書名も「セイゴウ先生、本を語る」(陳腐でしたね)ぐらいなら愚痴も出なかったのに。ではボクの愚痴ではなく、グッときたぜおーポイントを少しだけ。

《いちばん厄介なのは、読書のプロセスは外からなかなか覗きにくいということなんです。マルセル・デュシャンは、「人が何を見ているかは見えるが、人が何を聞いているかは聞こえない」と言ったけれど、「人が何を読んでいるかはわかっても、人がどのように読んでいるかはわからない」といったところがあるんです。》(P8)セイゴウ先生がどのように読んでいるかをもっと知りたかった。

《蔵書家ってつねに収納に悩みますね。でも、これは最初は武田泰淳さんに、次に松本清張さんに聞いたことですが、本が溢れてきたからといって書庫を作ってしまうと、急に本を読まなくなるんだという。「読む」のじゃなくて「調べる」になるらしい。》(P11)蔵書家の人はグッときたかな……。

P85のセイゴウマーキングの具体例は必見!なぞがなぞをよぶ、そのマーキングの意味を教えてほしかった。

セイゴウ先生は、本はどんなふうに読んでもいいんだよっとおっしゃる。どんな読み方があるかというと、感読・耽読・惜読・愛読・敢読・氾読・食読・録読・味読・雑読・狭読・乱読・吟読・攻読・系読・引読・広読・精読・閑読・蛮読・散読・粗読・筋読・熟読・逆読・句読(くとう)・掩巻(えんかん)・慎独(しんどく)・音読・黙読・デジ読……。あなたはいくつ出来る?ボクは蛮読だけ。

最後にひと言。「あなたにとって、そもそも○○とは何ですか?」と質問する奴の感覚をボクは信用しない。こんなインタビュアーは、●●とおもって間違いない!たとえば、○○に"本"とか入れるヒト(仕事としてやっている人限定)。あなたにとって、そもそもインタビューとは何ですか?

もひとつ最後に。ボクは「そもそも」という言葉がキライです。「そもそも憲法とは……」とか「そもそも権利とは……」とか、真理真実を語っているつもり?そもそもなどとは片腹痛い、それはただ歴史を語っているにずぎない!少し躊躇(ためら)いがちに使え、って隣の徳さんがいってたような……。
・松岡正剛の千夜千冊
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya.html
・ISIS編集学校
http://www.isis.ne.jp/isis/

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・『プレイボーイの人生相談』 集英社 2006 

刊プレイボーイに連載されていた「人生相談」を単行本化。相談相手は●柴田錬三郎●松本人志●岡本太郎●リリー・フランキー●アントニオ猪木●大沢在昌●開高健●武田鉄矢●赤塚不二夫●野坂昭如●吉本隆明●遠藤周作●宇梶剛士●松山千春●坂井三郎●石原裕次郎●今東光、バッチバッチやぞ!!バッチバッチやぞ!!ゾックゾクするやろ!!特にリリーさん(田舎から東京に来た人に)と今東光さん(親友を探している人に)は必ず呼んで。

読字技術についての相談もあったので、そこだけ引用します。ある青年(たぶん)の、限られた読書人生において読むべきものは古典中心であるべきではないのか?という気取った質問に対する遠藤周作の回答です。

《 古典がわかるなら古典を読みたまえ。しかし、私の経験では君の年齢ではモンテスキュもパスカルも論語もさっぱり面白くはなかったな。パスカルに少しずつ感銘してきたのは今から五年ほど前です。私は君の年齢には一人に現代作家ならその作家のものを全部、読み、それも何回も読みかえすことを奨めたい。そして、その作家については少なくとも隅から隅まで知ると、彼が一生かけて獲得した人生を見る眼鏡、社会を見る眼鏡が君のものになるのだ。
   あれこれベストセラーに手をだす必要はない。といって、理解できぬ古典を無理矢理に読む必要もない。それより一人の作家、一人の思想家のものを全部、しかも繰りかえし読む読書法を君に是非やってもらいたいと思う。》

Amazonで遠藤周作著作を数えると単行本だけで159冊(未確認)ありました。まずは『沈黙』から読みますか、それとも『深い河』から。
・『絶対貧困-世界最貧民の目線』 石井光太 2009

日1ドルで暮らす人がいます。節約家ですか?もちろんそうではありません。1日1ドルで生きなければならない人がいます。悲惨ですか?そうとも言えません。

1ドルで暮らす・生活する・生きている・生きなければならない、言葉を替えると随分印象が違います。本書を読むと、どの言葉を使っていいのか迷ってしまいます。ところかまわずいちゃつく若者・バイブを売る路面店・ジャガイモの皮を剥く女たち・アピール系の物乞い障害者・春を鬻ぐ(ひさぐ)オカマ・棒に男根を巻いて伸ばすアホ・古タイヤで火葬される亡者・ウンコの上に住む家族・前戯のないチャチャットセックス・洪水のあとの宝探し・たった一人生き残った娘を魔女と叫ぶ母親。

あなたの収入を聞けば暮らしの様子は想像がつきます(日本なら)。でも、1日1ドルの生きざまを、世界の名立たる機関が出す統計の数字を眺めていても、わかるはずがありません。

本書には娘に売春の手伝いをさせる売春婦のはなしが載っています。手伝いをさせるといい子に?育つと話す彼女の、その理由を読んでください。豊かになるための売 春(たぶん日本)と、2~3日を生き延びるための売春を比することができますか。スルタナという年老いた女性のはなしも読んでください、愛も孤独もそこに あります。

軽いタッチで書かれているので、貧困な暮らしにサラッと触れることはできます。本書を絶賛はしません(著者の居場所はここじゃない)、絶賛に値するのは装丁を担当した渡邊民人氏のセンスです(なぜか著者の本はすべて装丁が良い)。けれど、130枚(たぶん)もの写真といくつかの統計図を掲載したことで、前から後ろから理解が深まるイイ本です。統計の数字に表れないリアルがここにあります。

2009年野蛮人(ボクのこと)が選ぶ装丁ランキング1位(4月6日現在)。

追記:著者がブログで「装丁について」コメントされています。装丁決定の経緯を説明しつつ《たしかに「『物乞う仏陀』の真似」と見えることもあるかもしれない。しかし、それは僕がそのように頼んだためである。責任があるとしたら僕にある。》と。たぶん、「渡邊さんだけ絶賛しないでくれよ~」という叫び?よって、上記の渡邊民人氏絶賛エントリーを訂正し「関口聖司氏・石井光太氏・渡邊民人氏みんなエラいぞ大きいぞ!」とさせて頂きます。関係各位にお知らせでした(見てねーかっ)。
・石井光太公式サイト「コウタイズム」
http://www.kotaism.com/
・石井光太ブログ「-旅の物語、物語の旅-」
http://kotaism.livedoor.biz/

・雑誌「FAMOSO」(ファモーソ)2009年05月号(創刊号)


ートたけし編集長・所ジョージ副編集長の雑誌創刊号。
巨匠の廃墟がここにある。

照れ隠しで作ったにしても、ここまでとは……。
きっとボクは騙されているんだ。

「おもしろい雑誌作ったぞ!」→ 実はこれが嘘→ 本当はわざとつまらなく作った→ 今日は4月1日→ 最初からおもしろくないのだから→ つまらないと文句を言う奴はまんまと騙された→ おもしろいという奴も騙された→ 買ったボクも騙された→きっとあなたも騙される。

くだらないものはおもしろい!でも、くだらないのにつまらないものもあるのです。
・BSフジ「所さんの世田谷ベース」 ←観てます。
http://www.bsfuji.tv/tsb/

・『死なないための智恵』 上野正彦 2009

ず、装幀センスに絶望した、その感性に絶望した、帯をつけてもクールなことに絶望した。フェリックス・ヴァロットンの木版画に絶望した、帯の”釣り文句”が平凡なことに絶望した!

ボクが絶望したように、あなたが絶望したとき、フェリックス・ヴァロットンの木版画を思い出してほしい。その記憶が、死なないための智恵を呼び起こす。ただし本書を読んでいたならという条件で。

たとえば、豪華客船に乗り込んだのに、素敵な出会いはなかったのに、極寒の海に投げ出されることだけが同じだったとき(わかってください)。あなたは何かつかめるものを探す、そして静かに助けを待つ。もうすることがない紫黒の夜海で、溺れかけている素敵な異性はいない。震える身体がゆっくりと暖かくなっていく、必死につかんだ木片をすーと放しても浮かんでいられそうな感覚。その日わずかな智恵がわずかな命を救いたもう。

《なかなか救助されず、心臓が弱ってきたなと感じたら心臓を叩くといい。刺激をあたえるというのはいいことで、たとえわずかなことでもやれることはやるべきだ。》(P178)

この智恵が、素敵な異性に出会うチャンスをくれる。

街でも智恵はあるほうがいい。無差別殺傷被害にあったら、まずその流れる血の色を見ろ!それは献血ルームで見る色か?《黒ずんだ血なら静脈をやられたので慌てる必要はない。》(P36)それなら明日も生きられる(かも)。覚えてないなら明日ゆけ。

・日本赤十字社
http://www.jrc.or.jp/index.html


雑誌「一個人」2008年10月号

画『スカイ・クロラ』原作者・森博嗣氏へのインタビュー記事が載っています。特集「人気作家10人がお勧めする究極の3冊」の一人として登場しているのですが、ボクが注目したのは森氏が自身の小説の読み方について語っているところ。「拝啓小説音痴さんへ」を書いてから、もう一度記事を読み直しました。

さて、森氏曰く、《「基本的に再読はしないので読んだ本はとっておかないんです。だから、本棚もありません。」》

《一度しか読まない代わりに、どのページに何が書いてあるかということが思い出せるくらい丹念に読む。繰り返し読むことはないのに、1日2時間で20ページほどし進まないのだそうだ》(記者の報告)。だから、《「一冊読むのに2~3週間はかかります」》

さらに森氏曰く、《「だって、書いてある文章から世界を頭の中で構築しなくっちゃいけないわけですから、すごく大変じゃないですか。むしろ、みんながどうして小説を早く読めるのかわからないですよ。僕は一度読んだストーリーは絶対忘れないし、自分の経験と同じくらい鮮明に覚えています。」》、こういう人を天才(ボクの天才ジャパンの一人)というのでしょう。

記事には書斎?の写真も載っています。特に愛知県民はぜひ!
表紙の司馬遼太郎かっこいいですね。
・森博嗣の浮遊工作室
http://www001.upp.so-net.ne.jp/mori/
・公認ファン倶楽部「森ぱふぇ」
http://www.pure.cc/~pramm/morifan/index.html
・『文芸誤報』 斎藤美奈子 2008 
 
芸誤報とは「自分にゲロしてGo Home!」の略(嘘です)。本書は『週刊朝日』や『朝日新聞』などに掲載された書評172本をまとめたもの、終わり。

「終わり」とは突き放した言い方をしてしまいました。書評を書評しなくていいんじゃないかと……(反省)。本書を取り上げたのは”中身”ではなく”おまけ”が良かったからです。書評とは別におまけ(たぶん)で「文芸作品を10倍楽しく読む法」を10コも教えてくれます。3ページだけなので立って読めます!(本屋さんでは駄目ですよ)

①小説に教訓を求めるな。
②小説のテーマを考えるな。
③登場人物に共感を求めるな。
④小説に感動を求めるな。
⑤純文学と娯楽小説では読むモードを変えよ。
⑥お話だけがすべてと思うな。
⑦WHATよりHOWに注目せよ。
⑧美は「ゆがみ」にこそありと思え。
⑨物差しはたくさん持て。
⑩困ったときは遠くを見よ。

それぞれに2~3行の説明が付いています。たとえば、③では読者は登場人物の好き嫌いや共感の有無で作品を判断しがちだけれど《小説はあなたの結婚相手ではありません》とか、④《泣ける作品が優れた作品であるとは限りません、泣くだけならばゼロ歳児にでもできます。大人の感覚を磨きましょう》と手厳しい。⑤《娯楽小説は物語の内容(ストーリーやプロット)に力点のある小説、純文学はそれ以外に力点のある小説》であり《娯楽小説はお金さえ出せば楽しく遊べる遊園地、純文学は自分で楽しさを見つける登山》だから……、詳しくは本書で。いままで小説を楽しめなかった人たちに、こんな読み方もあるよって教えてくれます。

読了本の書評を探して読む、というのが本書の正しい読みかたかな?ひとつひとつはコラム的で、マツコ・デラックスのひと言コメントみたい(違うかっ)。執筆当時の話題の本(一部で?)を取り上げていて、著者のオススメ本ではありません(たぶん)。今こんな本が一部で話題になっているけど、ちょっとイジッてみるねっ的です、残念。

325ページでは本好きな子供の悲しい現実をバラしてしまいました!《本を読む子だったあなたなら、きっとわかってくれるだろう》、本は●●の敵である。

昼休みの立ち読みにおすすめします!
・『柴田さんと高橋さんの「小説の読み方、書き方、訳し方」』 柴田元幸・高橋源一郎 2009

《「翻訳する」という行為を視覚化してみると、ここに壁があってそこに一人しか乗れない踏み台がある。壁の向こうの庭で何か面白いことが起きていて、一人が登って下の子どもたちに向かって壁の向こうで何が起きているかを報告する、そういうイメージなんです。》と柴田さん。

翻訳文学に対する見方が少し変わった。
・『君のためにできるコト』 菊田まりこ 1998 

《ぼくは、気のきく くまおくん。》
《あたし、くちべた くまこちゃん。》

んな二人(二匹?)がかもし出す、なんとも怖いホラー絵本!

表紙のカノジョがくまこちゃん、悲しい未来がまっている。すぐにカノジョもわかるだろう、カレ(くまおくん)がわかってないことに。なんにも変わってないことに。

きっと、その日はきちゃうだろう・・・。温めたミルクがあふれたときか、それとも、えっちをこばんだときか。絶対、どなったりはしないと思う、でもね、やっぱりカレは言うと思う。

「ずっと、いっしょにいてあげたのに・・・。」
・『放送禁止歌』  森 達也  2003


なたは、放送禁止歌を聞いたことがありますか?
テレビやラジオが放送しない(したがらない)歌があります。

本書は1999年5月23日深夜フジテレビで放送されたドキュメンタリーを下地に書籍化したモノ。番組自体は作りが荒いしザッピングで指が止まるというものではない。でも、本書を読んだ後は必ず立ち止まり観たくなる番組です。

かつて(現在も)TVの箱の外にはもう一つ箱がありました(ある)。内側の箱の名前はプラスチック、外側の箱の名前は”自主規制”!歌詞に人を傷つける恐れのある”ことば”がある。誰かが傷ついたらしいぞ、苦情があったらしいぞ。ホントと噂。放送局の人達は考える。傷つけたくないし、それ以上に「傷ついたぞ!!」と怒られたくない。どうしよう?そうだ!そんな面倒な歌は放送しなければいい。リストも作っておこうよ、同僚や後輩たちが後々困らないように。リストの題名は”放送禁止歌”。すると時が経つにつれ、リストに載っている歌は理由を考えることもなく、ただ箱から弾かれていく。そして箱からはその歌が聞こえなくなる。

さまざまな”放送禁止歌”がある。また聞きたい歌がある、「竹田の子守唄」「手紙」「イムジン河」などはあなたに是非聞いてほしい。「悲惨な戦い」「スキンシップ・ブルース」「放送禁止歌」などはウンコです(ごめんなさい)。”放送禁止歌”になったからこそ残ってしまった歌もあるのですね。

本書ではそもそも”放送禁止歌”などないこと、それは放送自主規制歌であることが徐々に明らかになっていく。著者の森達也氏は考える。なぜ自主規制したのだろう。「いや~あの歌を放送したりすると解放同盟がうるさいんだよ」みたいな雰囲気があることを知る。森達也氏は解放同盟のA氏に会いにいく。

「糾弾?この唄に?同盟として正式に抗議したことは、たぶんないはずです」A氏は否定する。
「・・・・・・もし糾弾などしていないのなら、メディアはどうしてこんな事態に陥るのでしょうか」森達也氏は聞く。
「・・・・・・皆が自分で考えていないからでしょう。マニュアルや他人の判断を鵜呑みにして、自分自身で考えるという当たり前のことがなされていない。特にマスメディアの方々に対して、私はその思いを強く持っています」
「メディアが自分の言葉で考えて、そしてそのうえで必要と判断した表現に対しては、解同は理解を示してくれますか」
「もちろんです。自分の言葉で考えなくてはならないことは私たちも同様です。大切なことは一つひとつの言葉に条件反射で反応することではなく、その文脈を正しく捉えることです。」

森達也氏は言う
《タブーが生まれる背景には時代の必然がある。その意味で「規制」は不必要とは僕は思わない。しかし、そのあり方に自覚的になるだけで、世の中の見方がずいぶん変わる。少なくとも、形骸化していた規制を10年以上引きずるような愚行を続けることはなくなるはずだ。》

時と共に差別がうまれ差別語ができる。2009年現在なら、ニート・派遣社員・世襲議員などが将来なるかもしれない。特に世襲議員は、その人の能力に関係なく侮蔑的意味合いを含めて使われている。「世襲議員はだから駄目なんだ」って言うヒトは、だからダメなんだ。

発言する側に差別的意図はなくても、受けて側の解釈で不快に感じることがある。『差別表現の検証』(西尾秀和)に次のような例があげられている。
《昨日、私は仕事の上で初歩的なチョンボをしてしまった。入社10年にもなろうというのに恥ずかしい限りだ。》という文について、「在日コリアン人権協会」のある幹部はいう《「この文章自体は別段、差別でもなんでもない。だけど私たちは、”チョン”のつくことばはいやなんだ」》と。”チョンボ”は中国語であって、”チョンホー””チョンボー”などと発音され、カン違い・失敗といった意味らしい。

もう一つ例を出してみる。『実例・差別表現』(堀田貢得)によれば、”ハーフ”という表現はイギリスでは差別表現であり、”ダブル”とすべきである、と抗議をされた団体の例が出ている。無理やりに”チョンボ”の例と重ねれば、”ハーフマラソン”や”ニューハーフ”も使うときは配慮がいりそうである。飛躍しすぎですか?

『差別用語の基礎知識’99』(高木正幸)にはこうある。
《もともと「差別語」といったものはないし、どんな言葉も自由に使われるべきなのが原則である。抗議、糾弾さるべきは、単なる言葉の問題でなく、それこそ水平社宣言決議がいうところの「侮蔑の意志」の「表示」であるかないかである。そして、その侮辱の意志の表示か否かの判断が、一方的になされてはならない。》
発言するものは、発する”ことば”の意味を常に意識し、差別されるものへの配慮を忘れるべきではない。知らないものは忘れようがないから、まず差別語を知る必要がある。差別されたとして抗議するものは、発言者に差別の意志があるかないかを判断する冷静さが必要。どちらの立場にだってなるのだから。

日垣隆氏は《何でもかんでも差別語だと言って避けると使う言葉がなくなる、などと平気で言う人もおりますけれども、そのような人は語彙が貧困なだけでしょう。》と、キツイおことば。

テレビ番組に過激なコメントを期待されて出ている人がいる。その人が叫ぶ「正気かこの●●●!!」「おんどりゃ●●」「日本から出て行け●●●●」・・・。収録なら”ピー”が入るし、生番組ならアナウンサーが「先程不適切な発言がありました。おわびします」などとおっしゃる。教えてほしい、放送禁止語を使わなければ人を侮辱したり嘲ったりしてもいいの?たとえば、どこかの国の首相に「漢字が読めないんでちゅか~、一緒に小学校1年生の漢字をお勉強しましょうね~」はいいの?文脈で考えるとダメじゃないか。生放送ならまだわかるよ、でも収録番組で”ピー”入れるのどうなの。ピー・ピー言ってる人は、ほとんど同じ人だよ。ボクはこの人を”ピーちゃん”って呼んでいる。”ピー芸”などでは笑えない。

テレビなどでは新聞のラテ欄や番組の冒頭で、次のように言ってくれるとありがたい。「やらせがあります」「司会者がCM中に寝ています」「本日のコメンテーターはありきたりなことしか言いません」「コメンテーターは熟慮のうえ発言しています」「時間稼ぎのために”町の声”を聞いてます」・・・。こういう自主規制はありがたい。

第3章のデーブ・スペクターとの対話もいい、アメリカの自主規制について。6秒ディレイトを知っていますか?中国を笑えないですよ。デーブはただの寒いギャクタレントではなかった!

第4章もじっくり読んでほしい。放送禁止歌から部落差別問題へと切り込んでいく。本書を作った理由がここにある(たぶん)。そして本書を読み終わったら「竹田の子守唄」「手紙」を聴いてほしい。
 

・NONFIX 『放送禁止歌~唄っているのは誰? 規制するのは誰?~』 ニコニコ動画「小生どうが」
http://blog.livedoor.jp/kourick/archives/50690576.html
・歌 『竹田の子守唄』 赤い鳥 You Tube
http://www.youtube.com/watch?v=dgkxBG_cr9o&feature=related
・歌 『手紙』 岡林信康 You Tube 番組のエンディング
http://www.youtube.com/watch?v=ovxkY0HJLuk&hl=ja
・放送禁止歌案内 「カオスの本棚」
http://homepage2.nifty.com/bookbox/kinsika.htm
・森達也公式ウェブサイト
http://moriweb.web.fc2.com/mori_t/index.html
・忌野清志郎「夜のヒットスタジオ」←本当に最高のバカだった。
彼こそロックだ(2009年5月2日満58歳没)You Tube
http://www.youtube.com/watch?v=yfK3KLT9TwU&feature=related(02:12~)

■不必要に人を傷つけたり、周りに迷惑をかけないようにするために。
・堀田貢得『改訂版 実例・差別表現』 amazon/bk1

・高木正幸『差別用語の基礎知識’99』 amazon/bk1


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